2匹の犬は神様からのギフト。自分が探していたものの答えがそこにあった。

太田垣さんは2年前、亡くなった友人から2匹の犬を引き取りました。
闘病中だった友人は犬のことばかり気にしていて、自分が亡くなった後は太田垣さんに飼って欲しいと言い続けていたのです。友人が亡くなることを認めたくなくて、ずっと嫌だと答えていたのですが。
友人が亡くなった後、少し大きく運動量のある2匹の犬を家族として引き取る覚悟を決めて、それまで住んでいたご実家から引越しをしました。その時から生活が180度変わったそうです。朝5時に起きて1時間歩いてから仕事に行き、夜も極力早い帰宅をするようにして、1時間散歩に。
その生活を始めた頃は、これまでのライフスタイルの変化や、自分の時間を犠牲にしなければならないことにストレスを感じることもあったそうです。
ある時、ふと、太田垣さんは「何も通じないのなら徹底的に可愛がろう」と気持ちを切り替えてみました。すると、仕事に対する態度、人に対する態度も変わり、生活すべてのバランスが整い始めたのです。
2匹の犬たちも毛づやが良くなり、表情も感じられるようになってきました。
そのとき、太田垣さんは気づいたのです。
この「見返りはないけれど愛情をそそぐこと、命を尊重すること」まさにこれこそが宗教なのではないかと。
「宗教人として探し求めていた、“宗教とは何か”という答えがこんな身近にあったのかと気づきました。
今では2匹の犬たちは神様からのギフトだと思っています。」
幼いころは神社から逃げたかった。憧れはドラマ、スチュワーデス物語。

お父さんが神主で、幼少期から神社で暮らしていた太田垣さん。
当時は洋モノがカッコイイ!和モノはダサい!という時代だと思い込んでいたので、小さい頃から早く家を出て外国に行きたかったそうです。
そんな時に流行ったのが堀ちえみさん主演のドラマ「スチュワーデス物語」。これなら華のあるお仕事だし、海外生活をしても両親に認めてもらえるだろう。太田垣さんは大学に入り国際社会に対応できるように学んで経験を重ねて、海外暮らしを念頭に置いて外国の航空会社の客室乗務員を目指すようになりました。
そして、太田垣さんはオーストラリア航空の試験を受けに行きました。
当時の履歴書、エントリーシートには「親の職業欄」があり、「神主」を英語で表記することに一瞬戸惑います。
辞書で調べると神主のことは「Shinto priest」とあり、神父に神道をつけるだけなのか!?と疑問に感じながらも書いたエントリーシートを提出しました。
試験当日、面接官が「神道」って何ですか?と聞いてきます。
太田垣さんは小さい頃から避けていた神道について詳しいことは説明できず、日々の生活の中で見聞きしていたことだけを英語で説明しました。幸いなことに面接官にその懸命さが伝わったようで、無事合格通知をもらいました。
しかし、他の合格者がトレーニングをスタートしたのにもかかわらず太田垣さんだけは呼ばれません。呼ばれたのは1ヶ月経った後でした。
CAになったことで初めて気づいた日本の文化のこと、神道のこと。

トレーニングのスタートが遅れた理由について航空会社から説明がありました。
「連絡が遅れてごめんなさい。航空会社はテロなどにも配慮して、宗教には慎重なのです。
実は私たちは神道について調べましたが、英語の文献が無く日本人に聞いても分かるように答えてくれる人がいない。神社にはよく行くと聞いたので、きっと大丈夫だろう。これから神道について教えてください。」
その言葉を受けて太田垣さんは初めて気づきます。国際人を目指して学んできたけれど、日本の一番近いところを知らないと国際交流はできません。外国人は当たり前のように自分の国の文化のこと、宗教のことを話すのに…。その時初めて、ずっと避けてきた神道について学びたいと感じたのでした。
「CA」「海外生活」という夢は実現したのですが、太田垣さんは約6年間の客室乗務員生活を過ごした後、シドニーオリンピックの年に賑やかな日本―シドニー線を経験した後に退職。そして、神道の勉強をするために國學院大學に入り神職の資格を取得。神道の知識を得ることが目的で、卒業後は別の仕事をするつもりでした。しかし、神職の資格取得のために「西宮神社」で受けた研修から考えが変わります。
「神様と人間の仲とりもち」
神様を体感し、その神秘性に慎重に敬意を払い、所作を正すなど・・・。
この非現実性を追求することに心が踊り、神職の道で16年目現在に至っているのだそうです。
「尼崎力」を持って今を生きる。

現在尼崎えびす神社ではユニークなイベントを開催して地域の方たちとの関わりを大切にしているそうです。
「神社は伝統を守るところであるけれど、それにこだわると現代人には通じない所がでてくる。
氏子さんって何?という人も増え、神社に関する知識や理解が希薄化してきたため、お祭りにお力添え頂くのも難しくなってきたのが現状です。日本には有名な大きな神社もあればうちのような小さな街の神社もあります。規模、歴史、立地に合わせたそれぞれの神社づくりが必要だと思います。
参拝者の個性も地域によって異なるので、神社で心が軽くなる方法や内容も、尼崎独特のものがあると思います。
尼崎力を持っていないと尼崎人には対応できませんから!」
尼崎に合う神社づくりをしたい。尼崎らしく、堅苦しくない。マナーに対しても人や状況によっては許容範囲を広くしてもよい、そんな気持ちで地域の人たちを受け入れていらっしゃいます。
「夏にはサッポロビールのオリジナルブランド“エビスビール”の協力による“エビスビアガーデン”、今年から手作り市(6月5日予定)も開催します。阪神電車が近いこともあって、電車から見えるのでいろんなところから尼崎えびす神社に来てくれるといいなと思っています。」
そんな太田垣さんのお気に入りの場所は、阪神尼崎駅の南西にある寺町。
お寺が11社並び、お寺の間の佇まいが京都のような印象で、尼崎らしからぬ佇まい、ギャップに魅力を感じるのだそうです。太田垣さん自身の魅力もそのギャップにあるかもしれません。装束の凛々しい美しさと、面白い会話と朗らかな笑顔のギャップに引き込まれてしまいます。
「開運」や「しあわせ」は、人との関わりの中にある

「“願掛け稲荷さん”という張り子のキツネさんの神事を作り、一筆箋にお願い事を書いてポストに入れてもらい、月に一度御祈願させてもらっています。これが、神社づくりに良いご意見ボックスになりました。
みなさんの御祈願をカテゴリー分けすると、健康、愛(恋愛)、仕事、の3つにキレイに分かれます。
この3つを開運させるために何が必要かなと考えたら、ああ、どれも人間関係だな、と感じたのです。
やさしく人に接すると、相手もやさしくなる。幸せを掴んでいく方、良いご縁が膨らんでいる方はそういう方が多い。「開運」や「しあわせ」は人との関わりを大切にすることから生まれるものなのだと気付きました。」
そんな太田垣さんに教えを乞いたい人もたくさんいると思います。そう伺うと、隔月女性限定で開運セミナーを開催していると教えてくれました。古事記や神話からヒントを得ている歴史的な話と、日本人の生き方や習慣を見直して運気を上げていくお話とのこと。実はこの開運セミナーを開くことで、CA時代に学んだマナーも、人との関わりの中で、開運に大きくつながることに気づいたそうです。神主になる道は遠回りだったけれども、良い回り道だった、と太田垣さんは言います。
「今便利な世の中だけれども、多様化の社会で人との関わりが難しくなり、ある意味生きにくい時代なのかもしれません。一人で迷う女性がいらっしゃったら、ふらっと来るだけでもいいのでまずここに一歩立ち寄ってみてください。神社はいつも開いていますし、寛容です。私も女性で話が好きですので、ぜひお話をしに立ち寄ってください。」
そう話す太田垣さんの優しい笑顔は、尼崎のにぎやかさから一転して清々しさを感じる尼崎ゑびす神社の姿そのもの。太田垣さんに会いに行くと、何かが変わるかもしれない。ほっとする場所がここにありました。
Photo/ルカフォト
(取材日:2016年3月2日)