地域で子育て。みんなのもう一つのおうち

小さな子どもたちの元気な笑い声、ご年配の方の朗らかな歌声。老若男女が集まる不思議な場所。
それが甲子園駅近くにある「まんまるみかん」です。一軒家の1階部分を開放し、母がオーナー、娘がマネージャーという親子経営レンタルスペースとして2011年に開業されました。
「この家は昔からいろんな人が出入りしてましたね。幼稚園児の頃なんて、私だけじゃなくて友達までもが『ただいまー』って入ってくるんです。お母さんたちも一緒に。子どもは自由に遊んで、お母さんたちはおしゃべり。幼稚園の延長というか、もう一つの家みたいな感じでした。」とおっしゃる橘さん。1階に住んでいた祖母が亡くなった時に、また賑やかな声が響く場所にしたいねと母と話したそう。今は核家族が増えたこともあり、母親だけが育児に携わることも増えました。幼稚園や保育園に勤務していた時に、様々な悩みを抱えながら育児に家事に仕事に一生懸命なママ達を見てきたからこそ、なんとかしたいと感じました。「もっと地域で子育てをできる場、コミュニティが必要。」そんな想いが形になったのがまんまるみかんです。
排除される人がいないコミュニティを作る

最近、「おまけ精神」を心がけているという橘さん。聞きなれない言葉ですが、発展途上国についてのコラムを読んだ時に出会った言葉だそうです。彼女の解釈を借りると「勝ちも負けもない世界、おまけの世界に自分を置く」ということだそう。
時間単位でお貸しするレンタルスペース。5分の遅れを「5分も遅れた」という人もいれば、「5分は遅れたうちに入らない」という人もいます。いろんな感覚や価値観を持つ人が集まるからこそ、完璧主義な自分との違いが気になり、数年前に悩みすぎて限界を感じたこともあるそうです。そんな時に出会った本や言葉のおかげで少しずつ「頑張りすぎなくていい」「自分がきっちりやらねばという考えを手放そう」と思えるようになりました。「早い、遅い、うるさい、静かなど、人の感覚はそれぞれで、基準を決めるのは難しい。あえてこだわりすぎない」と決めたそうです。
また、「きっちりすればするほど、その基準からはじかれる人が出てくる。それは勝ち負けの世界に近い」と感じました。年齢、職業、出身地、障がいの有無など様々な違いをまるごと包み込める、排除される人がいないコミュニティを作りたいと思ったことも、おまけ精神を心がけることにつながったのかもしれません。
役割は対話と環境を整えること

もともと、自分できっちりしようとしがちで、本人曰く完璧主義な橘さん。開業当初は、母との運営といえども自分が表に立つことが多いこともあり、あれもこれも自分でやらなければいけないという気持ちが強かったと言います。「あの時は失敗が許されないという感じがして、ピリピリしていた」と仲間に言われたこともあるそう。
今は、「一人で全部やろうとせずに、周りの人に委ねられるようになりました。」とのこと。その言葉通り、イベントに参加していた人が、次のイベントでは運営側ということも増えてきました。「お客さんを作りたくないんです。みんなが自分事、運営側と思ってくれたらいいなと思っています。」という橘さんの思いが形になってきたようです。
「私の役割は、一人一人と対話し、その人がやりたいことを引き出すこと。そしてみんなが主体的に動くための環境を整えてあげることですね」とさすが元保育士さんらしい視点。まんまるみかんという器も、そこに集う人も、単に利用するだけではない、そこからさらに新しいものが生まれて、つながっていく。レンタルスペースという枠にとらわれない、地域のコミュニティとしての役割がすでに確立しています。
世代を越えて関わり合えるコミュニティ

「子どもの頃の思い出といえば、阪神パーク」という、生まれも育ちも甲子園という橘さん。
「この辺りは平坦なので、自転車で移動しやすいんです。買い物も、カフェでお茶するのも、スポーツも、友達に会うにも、図書館も、とにかく望みは全部自転車で叶います(笑)。」とのこと。
休日も甲子園界隈で楽しむことが多いそうです。
仕事柄、地域の人との関わりも多い橘さん。地域の人とのつながりを日々実感されていると言います。「子どもたちが安心して通って、くつろいでいる姿。年配の方が居ついている様子。だんだん各世代がお互いに興味を持ち始めているなと感じています。」
今後の目標は、民間ならではの動きの早さを生かして何にでもチャレンジしていくこと。「行政とは違って、私なら多少失敗しても大丈夫。地域の人を巻き込みながら、いろんなことを試していきたいなと思っています。」と頼もしい言葉をくれました。
甲子園をはじめとして西宮界隈は転勤族の人も多く住む場所でもあります。外から来た人も安心して入っていける街コミュニティ、まんまるみかん。これからますます、たくさんの人の笑顔が溢れる場所となりそうです。
(取材日:2016年2月25日)