散歩途中での運命の出会いから世界へ
「『え!?これ紙で作っているんですか!?』ってよくびっくりされるんですけど、全部紙なんです。」
指先でつまめるくらいのくまさん、ピンセットでつまんで取り付ける小さなお花、かわいいスイーツ。絵本の中に迷い込んだような、可愛くてポップな世界観を作り出しているのは、ペーパークイリング作家の「こじゃる」さんこと、甲斐幸美さん。
ペーパークイリングは、細長く切った紙をくるくると巻いて、いろいろな形のパーツを作り、組み合わせて作品に仕上げるペーパークラフトの一種。ヨーロッパ発祥の工芸ですが、近年では日本でも愛好者が増えてきています。
こじゃるさんがペーパークイリングを始めたのは約10年前。お子さんが病気がちで看病続きだった時、散歩途中の本屋さんでペーパークイリングの本を見つけたのがきっかけだそう。
「見つけた瞬間、あ!これだって思いました。運命の出会いやったんやなって。」
そこからは看病や育児の合間にこつこつと独学で作品を作り続け、通信講座の受講を経て、講師としても活動を開始。今では、スタッフさんが講座を担当し、こじゃるさんは作家として世界に出品するほど活躍されています。
常識を打ち破る独特の世界観ゆえの悩み
つい先日、オリンピック・パラリンピックに合わせて開催された「世界芸術競技inリオデジャネイロ」に出品した作品が金銀銅に次ぐクリスタル賞を受賞。また、出版本がフランス語に翻訳出版されたり、ロンドン、ミラノなど海外の展示会に数多くの作品を出品されるなど、国内外で活躍されているこじゃるさん。しかし、ここまでにはたくさんの苦労もあったそう。
ご家族のことで色々と心を砕くことがあったり、自分自身の創作についても悩むことが尽きませんでした。
「私の作品って、技術やテクニックより作品の世界観を大切にしているんです。自分の頭に描いたイメージを形にして、私にしか作れない空気を出したくて。でも、それは従来のペーパークイリングにはあまりなかった作風だったようです。いろんな意見も耳に入りますし、本当にこれでいいのかと、不安になることもありました。」
そんな不安を払拭してくれたのは、「一番のこじゃるファン」でもあるというスタッフや、友人たちだったそう。
私らしく作っていいと認めてもらえた喜び
「こじゃるちゃんの作品は、日本から世界へと飛び出したほうがいい。」という言葉に背中を押され、横浜で行われたコンペティションに出品したのが2年ほど前。6000名もの人に見てもらえたこと、そして出展していた130アーティストの中で、来場者人気投票で1位を獲得したことが、さらに世界へと進んでいく後押しとなりました。
「実際に作品を見たお客様が、私の作品を1位にしてくれたのが本当に嬉しかった。私らしさを認めてもらえた喜びでいっぱいでした。」
悩みながらも作品を生み出してきたことが実を結び、こじゃるさんの自信へとつながりました。
「色々大変なこともあったけれど、コツコツ続けたことで、私にもこれだけのことができたんです。だから、スタッフのみんなにも『あなたもちゃんとできるよ』と伝えています。それに、周りのみんながいなかったら、私は自信を持てないままだったはずですから。」
現在こじゃるさんは作品作りと講座の監修、スタッフの方が教室運営・事務・企画などを分担。「ペーパークイリングをもっと生活の中に落とし込みたいんです。美術館に置かれる作品もいいけれど、たくさんの人がお家に飾ってくれるようになるのが目標ですね。」たくさんの人がペーパークイリングを楽しめるように、作り方を伝えたり、オリジナルの紙や道具も販売するなど、すでにスタッフの方とともに目標に向かって進んでおられます。
自然を日常のすぐそばに感じられる街
こじゃるさんのお住まいは、阪神沿線の中でも落ち着いた印象が強い香櫨園駅の近く。
昔からの閑静な住宅街で、小学生のお子さんが2人いらっしゃるこじゃるさんのように、子育て世代のファミリーが多く住まわれているエリアです。
「自転車をこげば、すぐに海沿いに出られます。逆に山の方面に向かうとハイキングもできるんですよ。海のレジャーも山のレジャーも、特別なことじゃなくて、日常のすぐ側にあるんです。それが大きな魅力だなって感じています。」
夙川や大東公園の桜が特にお気に入りで、お花見の思い出がたくさんあるそうです。
いつも身近に自然を考えられる環境も、こじゃるさんの想像力をかきたててくれているのかもしれません。世界中の人に愛される作品が、阪神沿線から生まれることがとても楽しみですね。