
今回のCheer*fullWomanインタビューでご紹介するのは、大阪府東大阪市で「YORI house~ママと子どもとみらいのばしょ~」を開いている山﨑頼子さんです。
山﨑さんが、本格的にYORI houseの運営に乗り出したのは2021年11月。それ以前は、東大阪の小学校教諭を10年間、そして家族で約3年間、香港で暮らした経験もあります。その間に教育への思いを募らせた山﨑さんは、子どもたちに衣食住の整った環境を、そして日本の教育を変えたいとYORI houseを開きました。この夏は、子どもたちに未来の選択肢を広げ社会とつなげる学びのプログラム、「まちまるごとcampus」を初開催!「やりたい」を次々に実現させるパワフルな山﨑さんに、お話を伺いました!
オーガニックカフェのような「YORI house」

大阪府東大阪市にある、近鉄「河内小阪」駅から徒歩約10分。住宅街の中にある「YORI house」は、カフェの佇まいです。店内にはテーブルと椅子、そしてテイクアウト用のオーガニック食品の商品がずらり。カウンターには梅干しを漬けた大きなガラス瓶がいくつも並びます。ここを運営する山﨑さんは、YORI houseで健康にこだわったオーガニックランチを提供しています。

「人の体は、食べ物によって作られます。混じり気のない物を食べると、混じり気のないありのままの自分でいられる気がする。せめてここのランチを食べるときだけでも、素の自分に戻っていただけたら」
営業は、10時から14時までのランチ時のみ。なぜなら山﨑さんは、保育園から小学校まで3人の子どもたちのお母さんだからです。ところでYORI houseは、たんにオーガニックランチを提供するだけのお店なのでしょうか?
ママたちと一緒に、子どもの環境を考える場づくりを

――― YORI houseとは?
いろいろやっています。まずランチに来る近所のママさんたちの情報交換の場。名前を「house」にしたのも、お家のように居心地の良い場所でありたいと思ったからです。また、子どもたちの学びの場でもあります。いろんな大人たちと接するワークショップを通じて、子どもを取り巻く環境や衣食住を整え、義務教育の中で「生きるための教育」をやりたいと思っています。
――― 子どもたちが生きるための教育ですか。なぜそれをやりたいと思ったのですか?
教員をしていた20代の頃、子どもに対して日本のママが担う役割の大きさを、いつも感じていました。ママでなくても、パパや、その他の大人たちが子どもに与える影響も大きいです。でも、限られた大人の下で育つ子どもたちが、これからの日本や世界で生きるために必要な力を身に付けられるかと考えると、難しいと思います。今の日本は食料自給率も低いし、10年後に今の日本がそのままある保証もない。その中で子どもたちが育つための良い環境とは何かを話し合う場としてYORI houseを作り、その場にママたちを巻き込みたかったんです。
――― それを東大阪から発信したいと?
発信いうより、同じような思いの人がいたら、その人の得意を生かしたYORI houseを運営してもらい、ひいては将来、全国へフランチャイズ展開したいんです!それが日本の教育を変えると思っています。
もどかしかった教員時代

――― 「日本の教育を変えたい」と思ったきっかけは、教員時代ですか?
そうです。私は学校の先生になりたくて、大学を卒業してすぐ小学校教諭になりました。でも、いろいろ壁にぶつかることが多かった。憧れの職業だったから、それだけ憤りも大きかったです。
私は、子どもたちが10年後、20年後にどんな大人になっているかを想像しながら指導したかった。でも子どもたちに将来の夢や、なぜ学校に通うのかと尋ねても「別に」、「義務教育だから」ってそっけない返事なんです(苦笑)。
――― 小学生で?
高学年の子ですね。学校に魅力を感じない子どもやママが多い現実を、目の当たりにしました。「あなたたちはかけがえのない時間を無為に過ごしている」、何とか考え方を変えたいと、何度も開いたのが「お楽しみ会」です。
――― なぜ「お楽しみ会」を?
「今あなたたちが学んでいることは、将来、社会の中で必ず生きてくる」と伝えるためです。「お楽しみ会」では、子ども一人ひとりが自分のやりたいことをプレゼン。そのための協力者を募るなど、コミュニケーションを促すようにしました。
そうして子どもたちの個性や才能を伸ばし、将来、社会で生きるための必要なスキルを身に付けてもらおうと思ったのです。例えば宣伝ポスター1枚を作るにもデザインや言葉遣い、見る人の心に響く一言を入れたりと、思考の土台は全ての教科に通じます。
――― そんな風に「お楽しみ会」を考えたこと、ありませんでした!
ですよね。でも公立学校は公平を重んじるので、一つのクラスが“目立つ”ことをよしとしない先生もおられます。あと、私は毎日子どもたちと学級通信を交わしていましたが、それも同じような反応でした。私もまだ20代と若く、「他の先生たちも個性を生かした指導を行えばいいのに」などと思っていました。でも先生が自分の個性を発揮できないところで、子どもたちが個性を発揮できるはずがありません。「学校って何だろう」と悶々としているとき、夫に香港への転勤の打診がありました。
香港で知った個性を重んじる教育

――― 香港に行かれて、日本の教育との違いはいかがでしたか?
私の子どもたちは、地元の子どもが通う幼稚園に入れました。そこで驚いたのは、幼稚園ごとに教育方針や理念がしっかりあること。そのため、親が「うちの教育方針に合わない」と思ったら、どんどん転校させます。それができるのも園ごとに個性があるからと納得しました。あと香港の学校は、子どもたちや社会のニーズに合わせ、毎年カリキュラムを変えます。そしてカリキュラムを作る先生や、カリキュラムに合った教材を準備して子どもたちを指導する先生、給食指導の先生など、役割分担が明確。だから先生は教材研究に熱心に取り組めて、周囲からとても尊敬されています。その代わり、教育費は高額です。ちなみに幼稚園では、毎月1人13万円ほどかかりました。でも香港では、教育とはそれだけ価値あるものという認識でしたし、実際に充実した内容でした。
――― 日本との違いにびっくりです。
でも日本を離れたことで、逆に日本の教育の良さを再確認できました。識字率の高さは世界から長く評価されてきましたし、例えば江戸時代の寺子屋の人間尊重の教育は大変素晴らしいと思います。そんな日本と海外の良いところをうまく組み合わせて、自分なりの「新しい教育」が創り出せたらと思いました。
教育変革は待ったなし!その思いがLED関西へ導いてくれた

――― 帰国して、YORI houseを開くまでのことを教えてください。
教員への復職も考えましたが、戻りませんでした。「教育を変えたい」、「現場を変えたい」という思いが、忙しさに紛れて散り散りになるのが嫌だったし、「変える」のは容易ではありません。だったら、学校の外で自分なりの新しい教育モデルを作り、いずれそれを学校から委託してもらえるくらい大きく成長させたい。それが浸透して当たり前になれば、そこから「新しい教育」を始められると思い、YORI houseを設立しました。
――― LED関西に出場したきっかけを教えてください。
あるとき、YORI houseで「お金」についてのワークショップを開催するための講師を探していて、たまたま見つけた女性がLED関西に出場していたんです。女性起業家を応援するためにお金を渡すだけでなく、縁つなぎを大切するというLED関西に魅力を感じ、2022年5月のビジネス発表会を見に会場へ行きました。魅力的な出場者と会場の温かい空気に感動して、その場でエントリーしました(笑)
――― すごい行動力ですね!
当時は1人で焦っていたんです。子どもたちはすぐに大人になるので、「良いものを早く、どんどん提供しなきゃいけない」、「もうこれ以上放置していたら日本は駄目になっちゃう」って。その焦りと使命感が、私の背中を押してくれました。
――― で、1年後にLED関西のファイナリストに選ばれたんですね!
12月にファイナリストに決定の知らせをもらったときは「やった!」って飛び上がって喜んだのに、発表会当日は「私、去年憧れた舞台に立ってる!」とすっかり緊張してしまって。そんな私の発表「まちまるごとcampus」に対して「とても良かった」と声をかけてくださる方もいました。私の信念や思いは人一倍と思っているので、それを感じていただけたのだと思います。
みんなで子どもを育てる「まちまるごとcampusm」のねらい

――― 「まちまるごとcampus~あなたの街が学校に~」について教えてください。
「まちまるごとcampus」とはこの夏、東大阪市の100人の子どもたちを対象にした、人生の選択肢を広げ、社会とつながる学びのプログラム。タクシー会社さんや花火会社さん、不動産会社さんなど、地元を中心に7つの企業さんのご協力を得て、実際に仕事に携わりながらあらゆる知恵と知識を身に付けてもらう企画です。
――― 例えばタクシー会社さんでは、どんなことを学べますか?
東大阪の5地点をタクシーで回るのに、どれだけ乗れば料金がいくらかかるかといった算数の要素と、接客する際の思いやりの心を学べます。さらにタクシー業のワークスタイルにも触れます。彼らは1カ月の得たい収入を、自分で決められ、働き方をコントロールできるんです。個人で働くから、チームワークを強制されることもない。
さまざまな働き方を知ることで、「もっと自由に将来を選んでいいんだよ」と伝えたいです。
――― 山﨑さんは「まちまるごとcampus」で、子どもたちにどう感じてほしいですか?
この「まちまるごとcampus」は、街が丸ごとキャンパスをイメージしています。そこで子どもたちは「今学んでいる学校の教科書の内容は、実際に社会につながる内容なんだ」と実感してほしいのです。これを機に二学期からの授業に積極的になれたら、学校の先生もうれしいし、教育の価値も上がるのではないでしょうか。「まちまるごとcampus」で日本の教育が良くなり、社会も良くなると思ってもらえたらと思います。
ちなみにこの「まちまるごとcampus」の教材作りに協力してくれるママさんたちは、教職資格を持っていたり元学校教師だったりと、公教育のリアルな現場を知るプロたち。子どもと社会の橋渡しを意識した内容です。
――― 「まちまるごとcampus」で、どんな未来を創っていきたいですか?
将来は「『まちまるごとcampus』のおかげで日本の教育が良くなって、社会も良くなった」と言ってもらえるくらい、大きく成長させたい。
まずは、学校の授業に組み込みたいです。例えば1時間目から4時間目までは今ある現存の教育を行い、5、6時間目は「まちまるごとcampus」プログラム。これが日本各所で行われ、いろいろな大人が子どもたちと関わってくれる未来を目指します。
――― その「まちまるごとcampus」の拠点として活躍するのが、全国に展開するYORI houseというわけですね。
そうです。東大阪を皮切りに八尾市、大阪市とどんどん拡大させたい。もっと社会と教育が通じている世界となって、街のどこにいっても学びの場がある社会が理想です。
今も頭の中では、「こうしてああして、こうしたらめっちゃ素敵やん!」って妄想が膨らみ続けています。今はその妄想を、一つずつ現実世界に落とし込む作業をひたすらやっているところです。
阪神沿線でお気に入りの場所は?

東大阪を拠点に活動する山﨑さんですが、とあるNPO法人が主催する清掃活動で何度も訪れた阪神尼崎駅とその周辺に、思い入れがあるそうです。活動を通じて市民の方と触れあい、ときに悩みを聞き、歩んできた人生に思いを馳せたこともあったとか。まだ教員をしていた頃で、大学を出てすぐ先生になった山﨑さんにとって、人生の幅や厚みを教えてくれたのが、ここでした。
妄想を現実にする力が半端ない人

教員時代の憤りが起爆剤となり、「こうなったらもっと面白い!」という妄想を次々実現している山﨑さん。
香港での体験や感じたこと、日本の教育を客観的に見つめ直した経験が、山﨑さんのやりたいことに深みを持たせています。だから質問の答えも単純明快で、それだけ強い意志を感じました。
反面、インタビュー中も子どもさんや保育園から連絡があったりと、母親、経営者、妻などなどいろんな顔を持つ大忙しの山﨑さん。
長く続けてきたバレーボールや、宮古島トライアスロンなどで鍛えた体力と精神力、粘り強さ。またあらゆる場でリーダーを経験し、培ってきた統率力とメンバーを和ませる朗らかさ。「日本の教育の在り方を変える」ことも、きっとこの人ならできるだろうと思わずにいられない、魅力あふれた女性でした。
インタビュー/チアフルライター 國松珠実