数億円よりも欲しかった「人間らしい生き方」

「人間らしい生き方がしたい、それがスペインへ移住した理由。」とにっこり笑う湯川さん。
東京での多忙さは、「何日、太陽の光を浴びていないんだろう」と思うほどだったそう。朝起きて、太陽の光を浴びながら歩いて、仕事をして、食べて、夜にはちゃんと寝る。数億円のお金よりも、そんな人間らしい暮らしが欲しくなったと言います。
スペインでの10年の在住期間中には、「ほぼ日」での連載をはじめとして執筆活動を開始し、著書を出版。出産と育児も経験されています。そんな湯川さんが、次の居住地として選んだのが神戸の街でした。
奇跡を起こす秘訣は、なんとKY!?

「生きる知恵と力を高める」を理念として立ち上げたリベルタ学舎では、大人も子どもも学べる場を提供しているだけではなく、「なりわい」を作り出す活動を始めたり、主婦が議員に向けて政策案をプレゼンする「一億総満足社会政策オーディション」を開催。人と人、人と自然、人と社会などの多くのつながり、チームを作り出しています。
「人間って、本来誰かを助けるのが好きな生きものだと思うんです。誰かを幸せにしたいという山のてっぺんに向かって、いろんなルートを作って登っていくのが仕事というイメージ。そのとき、それぞれの弱いところを補いながら、一緒に山頂を目指すのがチームです。私はいろんな人の真ん中で、あなたとあなたがチームになればいいよねと声を掛ける役をしています。例えば、一億総満足社会政策オーディションの場合だと、今まで市民と行政が一緒に政策に取り組むことはなかったですよね。でも、私はKY(空気が読めない)だから、一緒にやればいいんじゃないって言えちゃうんです。みんなで楽しい社会を作ろうよって真ん中で声をあげる。私は、そんな言いだしっぺの役目です。」
そう力強く話してくださった湯川さん、「KYって、K(カナ)Y(湯川)。私のイニシャルでもあるんですよ、ぴったりでしょ。」とも教えてくださいました。
ヒューマンスケールのまち、神戸

「神戸って山も海も街もある、まち自体がヒューマンスケールなんです。そこに自然と惹かれたのかなと思います。あと、スペインって『明日死ぬかもしれないのに先の事ばかり心配してどうするんだ』っていう考えが根底にあるんですね。今という瞬間の重要度が高いんです。神戸は、震災を経験していますよね、そのせいか今ある命、今生きていることの大切さを感じている人が多いように思います。そういう共通点を自分なりに感じていたのかもしれませんね。」
神戸は、街と自然、海と山、昔から様々な国の人が集まる土地柄、様々な違いがゆるやかに共存しているまち。湯川さんが「よそからきた私も居場所を見つけやすかった」と話されるのも納得ですね。
人間味あふれる生き方を実現できるまち

「自宅は海が近いんですが、朝から山に登って、帰りに商店街で買い物をして帰宅する。こんなことができる都市は世界でも神戸くらいかもしれませんよ。」とのこと。
湯川さんが普段過ごしていらっしゃる阪神岩屋駅の近くには、兵庫県立美術館や王子動物園、水道筋商店街、今回撮影スポットにもなったなぎさの湯や遊歩道など、見所も多くあります。
「1人で過ごしたいときにも、誰かと過ごしたいときにも、ぴったりの場所が色々ある。自然も街も近いので、移動も楽ですよね。神戸って、何かやりたいなって思った時の労力が少ないことも嬉しい。」
そう話してくださった湯川さんは取材当日、太陽の光を浴びながら自転車で現場に登場。かつて、太陽を見ることもないほど忙しく働いていた時とはまた違う、人間味があふれだす生き生きとした姿がそこにありました。
(取材日:2016年6月6日)